不動産業界では、デジタル技術を活用した「不動産テック（PropTech）」が浸透しつつあります。紙とFAX中心のアナログから脱却し、クラウドを活用した資産管理や契約管理へ移行することで、不動産管理の効率化とコスト削減を実現しています。
この記事では、不動産テックの定義や導入メリット、システム選定のポイントに加え、企業の導入事例なども紹介します。
不動産テック（PropTech）とは
不動産の管理業務において、紙やFAX中心のアナログからの脱却が急務となっており、不動産テックを積極的に取り入れる動きが加速しています。市場全体でも不動産テックを導入する不動産会社が増加傾向にあります。
背景には、人手不足による業務効率化へのニーズの高まりがあり、テクノロジーを活用した業務改革は今後ますます重要になるでしょう。
さらに、電子契約やオンライン内見、AIによる需要予測など新しいサービスも続々と登場しています。こうした流れは単なる一過性のブームではなく、今後の不動産ビジネスにおける競争力を左右する要素になりつつあります。
不動産テックの定義と背景
「不動産テック（PropTech）」は、不動産（Property）とテクノロジー（Technology）を組み合わせた造語です。
一般社団法人不動産テック協会は、不動産テックを「不動産業界の課題や商習慣を解決し、新たな価値を創造するテクノロジー」と定義しており、単に既存業務をIT化するだけではない点を強調しています。
日本の不動産業界は、情報を囲い込む慣習や生産性の低さが指摘されています。ビッグデータやIoT、AIなどを活用した不動産テックによるアプローチが、これら諸課題の解決策として注目されています。
不動産テック導入の具体的メリット
不動産テックの導入は、属人化や情報の分散、セキュリティリスクといった不動産業務で生じやすい課題を解消する手段となります。
ここでは、業務品質を安定させ、顧客対応や経営判断の精度を高める不動産テックの具体的なメリットをみていきます。
属人化を防ぐ
不動産業務は担当者が長年の経験や人脈に基づいて対応することが多く、個々のノウハウがブラックボックス化しやすい傾向にあります。
不動産テックを活用すれば、クラウド上で物件情報や顧客情報、契約ステータスを共有・可視化できるため、誰でも最新情報にアクセスして業務を引き継ぐことができます。
これにより、業務の停滞を防ぎ、顧客への対応スピードや品質が安定します。さらに、個人のノウハウが会社全体の資産となり、組織としての成長や信頼構築にもつながります。
見込み客を逃さない
不動産の商談は時間がかかり、契約までに複数回のやり取りが欠かせません。その入口となる問い合わせの直後は、顧客の温度感が高く、レスポンスの速さが成約率を左右します。問い合わせから1時間以内、遅くとも当日中にレスポンスすることが成約率を高めるポイントといわれています。
追客のタイミングが遅れた場合、競合に流れてしまう可能性もあり、契約機会を逃してしまう恐れもあるでしょう。こうした課題を解消するには、追客ツールの活用が効果的です。
問い合わせ内容や顧客情報を一元管理し、メールやLINEを使った自動フォロー、物件情報の配信、反応データの分析などを行うことで、担当者は効率よく顧客にアプローチできます。
情報の一元管理ができる
物件情報や契約書などが、紙やExcelなどで複数の場所に分散していると、必要なデータを探すのに時間がかかり効率的ではありません。
不動産テックを導入することで、担当者は1つのシステムであらゆる情報を確認できるようになります。さらに、クラウド型の管理システムであれば、外出先や在宅勤務でもオフィスと同じように業務を進めることが可能です。
情報が一元化されていれば、不動産を所有する企業の経営層も、経営判断に必要な数字を即座に把握でき、迅速な意思決定につながります。顧客の行動履歴や成約傾向を分析し、次の提案やマーケティング施策に活かせる点も大きなメリットです。
ガバナンスを強化できる
不動産取引は、顧客資産や個人情報といった重要な情報を扱うため、誤操作や不正を防ぐリスク管理が欠かせません。
紙書類やExcelで情報管理では操作履歴が残らず、承認ミスや改ざんリスクが見過ごされやすい点が課題でした。不動産テックを導入することで、承認経路や操作ログを自動的に記録でき、業務の透明性と信頼性を確保することが可能です。
たとえば、契約書の締結プロセスで電子サインを採用すれば、誰が・いつ・何を承認したかが明確に記録されます。さらに、役職や部門ごとに権限を細かく設定できるため、情報閲覧を必要最小限に制御することで、機密性やセキュリティの向上にもつながります。
これにより業務プロセス全体の透明性が向上し、現場担当者は安心して業務に取り組むことが可能です。また、経営層にとってはコンプライアンス違反のリスクを低減することにもつながります。
拠点間・他社との連携を円滑化できる
大規模不動産の管理においては、膨大な物件情報と数多くの関係部署・外部パートナーが日々関わるため、情報共有が滞ると業務全体の停滞や経営判断の遅れに直結するリスクが高まります。
不動産テックは、こうした課題を解消する有効な手段の1つです。インターネット環境さえあれば、どこからでもシステムにアクセスできるため、最新情報をリアルタイムで共有できる体制を整えられます。
これにより、管理する不動産に関連するデータや情報を円滑に共有でき、問い合わせ対応や契約処理を迅速に進めることが可能となります。効率的かつ生産性の高い不動産管理を実現できます。
不動産テック導入時の検討ポイント
不動産テックを導入する際は、目先の機能や価格だけに注目するのではなく、自社の業務課題をどのように解決できるか、長期的な利活用が可能かどうかを見極めることが重要です。
システムの選定基準や導入プロセスを多角的に検討し、運用後のサポートや将来の拡張性まで含めて判断することが、導入成功のカギとなります。ここでは代表的な検討ポイントを整理していきます。
クラウド型とオンプレミス型の適切な選定
不動産テックを導入する際には、社内で使用している会計ソフトやCRM（顧客管理）、営業支援ツールなどとのデータ連携が可能かどうかを必ず確認するようにしましょう。
連携ができない場合、同じ顧客情報や契約内容を複数のシステムに繰り返し入力する二重入力が発生します。また、データの一元管理も難しくなり、情報が分散し、必要な情報を探す手間もかかります。こうした状況は、せっかくの導入効果を大きく損なうことになるでしょう。
そのため、システム選定時にはCSVやAPI連携の有無、外部システムとの自動データ連携機能の対応範囲などをしっかりと確認し、業務全体でデータを一元的に扱える体制を整えることが重要です。
システム選定評価基準の策定
システムを選ぶ際は、必要な機能の有無だけでなく、操作性やサポート体制、費用対効果など、多角的な評価基準を定めることが重要です。
たとえば、物件管理や入居者管理、会計連携といった基本機能が過不足なくそろっているか、利用者全員が扱いやすい設計になっているかなどです。ほかにも、初期費用やランニングコストに見合う効果を得られるかといった観点で総合的に判断していきます。
さらに、導入後に役立つサポート体制や、研修プログラムの有無、将来的な事業拡大に対応できる拡張性なども評価項目に含めることで、長期的に安心して活用できるシステムを選定できます。
導入スケジュールと社内調整
不動産テックの導入は複数の部門が関わるため、現実的なスケジュール設計と社内の合意形成が欠かせません。
プロジェクト開始時には、予算と計画を関係者と共有しておくことで、進捗管理やリスク対応がしやすくなります。導入までの期間には、現行業務の棚卸しやデータ移行の準備、カスタマイズ要件の整理といった作業を段階的に進めましょう。これにより、各部門の担当者が役割とスケジュール感を把握しやすくなります。
また、業務フローの変更に伴う混乱を避けるため、トレーニングやマニュアルの提供についても計画に含め、担当者が安心して新システムを受け入れられるよう体制を整えましょう。
サポート体制・導入後の対応
新しいシステムを定着させるには、導入後の教育とサポートが不可欠です。特に大規模不動産を管理する場合は、関連部門が多岐にわたるため、導入時から運用後まで一貫した支援体制が求められます。想定すべき具体的なサポート内容には以下のようなものがあります。
- 導入前後の支援：現状分析やシステム設計の相談、プラン提案から、導入時の初期設定、稼働後のフォローアップまで一貫して支援する体制
- サポート窓口の整備：操作方法に関する質問や改善要望を受け付けるサポート窓口の設置
- 対応時間の拡充：年末年始を除き、土日祝日も専門スタッフが常駐し、電話・メール・チャットで迅速に対応できる体制
- トラブル対応：障害発生時の一次対応フローや復旧手順の明確化、バックアップ体制の整備
- 継続的な改善：定期的なアップデートや機能追加により、利用者の声や法改正、業務ルールの変更に対応
こうしたサポート体制を整えることで、導入直後の混乱を抑えつつ、長期的に安心してシステムを活用できる環境を築くことができます。
プロパティマネジメントにおける不動産テック活用事例
ここまで、不動産テック導入のメリットをみてきました。業務効率化や属人化の解消、情報活用の高度化など、さまざまなプラスの効果をもたらします。
ここでは、そのメリットが実際の現場でどのように発揮されているのかについて、大規模賃貸管理や、会計処理の自動化に取り組む企業の事例を通じて紹介します。
導入事例を把握することで、貴社における不動産テック活用の可能性を具体的にイメージできるはずです。
10万戸超を管理するビレッジハウス・マネジメント株式会社様の事例
ビレッジハウス・マネジメント株式会社は、全国で10万戸超の賃貸不動産を管理する大規模プロパティマネジメント企業です。
同社はこれまで複数のシステムを組み合わせて利用していたため、外部CRMとの連携やデータの一元化に課題を抱えていました。そこで、基幹システムとして『いい生活賃貸管理クラウド』を採用することで、シームレスな運用を実現しました。
導入にあたっては、大量アクセスや大量データに対応可能な性能の高さが決め手となりました。また、旧システムからのデータ移行や業務フローの見直しなど、サービスベンダーのサポートの手厚さも後押しとなったようです。
今後は、物件や顧客、契約や入出金に関連するさまざまなデータや情報をCRMや会計システムなどとシームレスに連携させ、経営方針の判断に直結するデータ分析基盤への活用にも注力するそうです。
「ビレッジハウス・マネジメント株式会社がいい生活の賃貸管理システムを業務基幹システムとして採用し本格運用を開始」
会計処理の自動化を進めた株式会社メイクスプラス様の事例
5,000戸を超える賃貸管理物件を保有する株式会社メイクスプラスでは、部門間のやり取りや紙帳票の処理にかかる時間が課題となっていました。
そこで、同社は基幹システムとして『いい生活賃貸管理クラウド』を導入し、さらに不動産の基幹システムと会計システムを連携させる「会計コンバート」機能を活用して仕訳作業の自動化を実現しました。
導入後は今まで手作業だった仕訳作業が自動化され、経理担当者は、煩雑で負担の多かった入力作業から解放されたとのことです。
また、SaaSプロダクトに蓄積されたデータをわかりやすく可視化し、経営課題の洗い出しをサポートする「経営分析プラットフォーム」も導入。賃貸管理事業の経営課題を可視化し、持続可能な経営を後押しする仕組みを実現しています。
「【メイクスプラスの基幹システムに採用】経営環境をホールプロダクトで支援」
不動産テックのメリットと事例を理解し、効果的に活用しよう
不動産テックは、紙やFAXに依存したアナログ業務からの脱却を促す有効な手段です。クラウドやデジタル技術を活用することで、属人化や情報分散、追客の遅れといった課題を解消できます。
また、情報を一元管理すれば顧客対応のスピードや精度が向上し、ガバナンスやリスク管理の強化にもつながります。さらに、拠点間や外部パートナーとの連携も円滑になり、組織全体で生産性の高い業務運営の実現が可能です。
こうした効果は、すでに数多くの不動産管理会社で実証されています。紹介した事例のように、大規模不動産を管理する企業では『いい生活クラウドSaaS』を導入し、データの一元化や会計処理の自動化を実現しています。
また、経営判断に直結するデータ活用なども多く、不動産テックが単なる効率化にとどまらず、企業の競争力強化や持続的な成長を支える仕組みとして機能していることを示しています。不動産テックを活用することで、不動産業務の現場課題を整理し、強い経営基盤を長期的な視点で築くことができます。
