賃貸管理DXは、デジタル化によって業務の負担を軽減する取り組みです。業務効率の向上や人的ミスの防止など、さまざまなメリットがある一方で、「具体的にどんな効果があるのかイメージできない」という声もあります。
そこで今回は、賃貸管理DXによってPM業務がどのように変化するのかをわかりやすく解説し、導入に向けたステップについてまとめます。
賃貸管理DXとは
賃貸管理DXとは、対面・紙・FAXなどで行っていた不動産管理業務をデジタル化して、効率を上げる取り組みです。
近年では、あらゆる業界でDXが進んでおり、不動産業界にもその波が来ています。特に人手不足や業務の属人化が深刻な現場では、品質を維持・向上させていく上で賃貸管理DXの推進への取り組みが欠かせません。
ここではまず、賃貸管理DXの位置づけや関連する業務領域について整理したいと思います。
賃貸管理・PM・AMの違い
賃貸管理DXには「賃貸管理」という名称がついていますが、その対象は賃貸管理業務にとどまらず、PMやAMといった領域の課題解決にも貢献します。
賃貸管理業務は、オーナーに代わって賃料の管理や共用部の清掃、トラブル対応といった日常的な物件管理を担います。これにより、オーナーの負担を軽減する役割を果たします。
これに対してPM業務は、賃貸管理業務に加えて長期修繕計画の策定や改修工事の実施なども担います。また、テナント誘致による空室率の低減、管理費削減などを通じ、資産価値や収益性の最大化にもかかわる戦略的な業務です。
さらに、AM業務は一段上の立場で、オーナーの代理人として投資戦略の策定や物件の取得・売却を行い、不動産ポートフォリオ全体を運用する役割を担います。
このように、賃貸管理・PM・AMは目的や関与の範囲に違いがありますが、賃貸管理DXを実現するシステムはこれらの垣根を越えて活用できます。現場での工数削減はもちろん、業務間の情報連携を強化し、オーナーへの報告や経営判断の質を高める基盤となるのが特徴です。
PM業務が抱える課題
PM業務はいまだにアナログ管理されていることが多く、DXが進んでいないのが実情です。アナログ管理による業務を続けていると、以下のような課題が生じます。
- データ分散による業務効率の低下
- 手動管理による人的ミスのリスク
- 利用者やテナントとのやりとりの煩雑化による顧客満足度の低下
こうした問題は単に作業効率を下げるだけではありません。経営判断の遅れ、オーナーへの説明責任の不十分さ、顧客満足度の低下といった形で事業全体に波及します。
そのため、持続的な改善と事業成長を実現するには、賃貸管理DXの推進が待ったなしで求められています。
賃貸管理DXによってPM業務はどう変わる？
賃貸管理DXを推進することで、煩雑な契約管理や報告業務などの工数を大幅に削減できます。削減された時間は、長期修繕計画の立案やテナント誘致など、資産価値を高めるための施策に振り向けることが可能です。
さらに、オーナーアプリや入居者アプリといったDXツールの活用により、情報が一元化されれば、レポーティングの正確性とスピードも向上します。その結果、オーナーへの説明責任を果たしつつ、経営判断の根拠となるデータ活用も可能になります。
このように賃貸管理DXは、単なる効率化にとどまらず、PM業務を本来の役割である「資産価値の最大化」に集中させるための強力な後押しにもなります。
賃貸管理DXによるメリットと効率化できるPM業務
賃貸管理DXを推進すれば、現場の業務効率化に加え、人的ミスの防止や顧客満足度の向上、資産価値の維持・改善にもつながります。ここでは、賃貸管理DXによって得られる主なメリットと効率化できるPM業務を整理し、それぞれを詳しく解説します。
業務効率化
業務効率化は、賃貸管理DXがもたらす代表的なメリットの1つです。これまで紙や電話、対面で行っていた各種手続きは、システム化され、やりとりはWeb上で完結できるようになります。
たとえば、契約情報、修繕・点検履歴、入出金状況などの分散しがちな業務データは、クラウド上で一元管理することが可能です。契約の更新や解約といった手続きもオンラインで完結できるため、書類のやりとりや電話対応にかかる時間の大幅に削減できます。
これらの機能は属人化の防止にも有効です。契約書類や修繕・点検記録などの情報をシステム上で一元管理するため、情報・データの社内共有がスムーズになります。結果として業務の透明性が高まり、組織全体の信頼性向上にも寄与します。
人的ミスの防止
賃貸管理DXの推進は、人的ミスを防ぐことにもつながります。データ管理を自動化することで、手入力による誤りや確認漏れをなくし、業務全体の精度を高められます。
たとえば入出金管理では、請求額や送金額をシステムが自動で計算するため、計算ミスや入力漏れの心配がありません。設備管理でも、法定点検や定期点検のスケジュールを自動で管理でき、作業忘れのリスクを大幅に減らせます。
こうして精度の高いデータが蓄積されれば、オーナーへの収支報告やテナントへの説明も、明確な根拠を持って行えます。正確な対応を積み重ねることで、オーナーやテナントから「安心して任せられる存在」と認識され、長期的な信頼関係の構築につながります。
顧客満足度の向上
賃貸管理DXの推進は、利用者やテナントとのコミュニケーションの質を大きく高めます。
賃貸管理ツールを活用すれば、トラブル報告やメンテナンス依頼、お知らせの送信をすべてWeb上で完結することが可能です。入居者は時間や場所を問わず連絡でき、スピーディで負担の少ないやりとりが可能になります。
さらに、チャットボットやFAQ機能を活用すれば、問い合わせへの初動対応を迅速に行うことができ、入居者の不安や不満を最小限に抑えることができるでしょう。
また、営業時間外でもアプリやオンライン窓口を通じてトラブル報告や問い合わせが可能となり、24時間対応の利便性を提供できます。これにより、入居者は「いつでも連絡できる安心感」を得られ、満足度がいっそう高まるはずです。
オーナーとのやりとりにおいても、収支報告や有益な情報配信を定期的に行うことが可能です。すべてのやりとりがWeb上で完結することで、一つひとつの対応にかかる手間が減り、より迅速かつ丁寧な対応を実現できるでしょう。
資産価値の向上
賃貸管理DXによって業務効率が高まれば、PM担当者は資産価値向上に直結する施策提案により多くの時間を割けるようになります。
修繕履歴や稼働率などのデータがシステムに集約されることで、数値に基づいた根拠ある提案が可能となり、客観的なデータをもとに高度なレポートを作成できるため、オーナーへの提案力も高まります。
たとえばリフォームや長期修繕計画では、劣化状況や履歴を踏まえて最適なタイミングと内容を判断できます。管理費の見直しでも、実績や内訳の可視化によって合理的な費用配分を提示できます。
さらに、説明時には蓄積された数値や写真、図面を活用することで、オーナーの納得感を得やすくなり、投資判断を後押しします。こうした積み重ねが資産価値の維持・向上へとつながっていきます。
賃貸管理DXを実現する方法
賃貸管理DXを成功させるためには、システムの導入だけでは不十分です。導入前に実施する業務課題の整理から、導入後の運用定着までを一貫して設計しなければなりません。
また、既存システムとの連携、社内体制・業務フローの整備なども重要です。こうしたプロセスを丁寧に進めることで、賃貸管理DXの効果を最大化し、持続可能な管理体制を構築できます。
ここからは賃貸管理DXを実現する際の具体的な方法について解説します。
1.業務課題の整理
システムを導入する前に、まず業務課題を整理することが大切です。課題が曖昧なままシステムを導入しても、賃貸管理DXの効果を十分に引き出すことはできません。
まずは、契約・更新・家賃徴収・問い合わせ対応など、アナログで行っている業務を洗い出します。工数の多い業務や属人化している作業を可視化することで、改善すべきポイントも見えてくるでしょう。
そのうえで、賃貸管理DXによって「どの業務をどう改善したいのか」を明確にします。そうすることで効果を最大化しやすくなります。
2.最適なサービスの選定・導入
業務課題を整理できたら、システムの選定・導入に進みます。
ITシステムには主にクラウド型とオンプレミス型の2種類があり、初期投資を抑えて手軽に始めたい場合はクラウド型が適しています。一方で、既存システムとの連携やセキュリティ要件を重視する場合はオンプレミス型が選択肢になることもあります。現場での使いやすさ、将来的な拡張性、導入後のサポート体制も欠かせない判断基準です。
候補を複数ピックアップしたら、資料を取り寄せ、自社の課題解決につながるかを確認しましょう。可能であればトライアルやデモ導入を通じて操作性を確かめると安心です。その上でベンダーに直接相談し、具体的な課題を伝えて提案を受けます。提案内容だけでなく、担当者の対応姿勢やサポート力も重要な見極めポイントです。
内容と対応に納得できれば、契約を結び、導入準備を本格的に進めます。
3.既存システムとの連携
賃貸管理DXを効果的に進めるためには、新しいシステムを導入するだけでなく、すでに利用している会計ソフトや修繕管理システムなど、既存ツールとのデータ連携を図ることが重要です。情報が分断されたままでは、せっかくのDXの効果が十分に発揮されません。
システム連携にはいくつかの手法がありますが、代表的なものは次の4つです。
①データベース連携
基幹システムのデータベースと直接接続し、リアルタイムでデータをやり取りする方式です。最新情報を即座に反映できる一方、セキュリティや運用設計に注意が必要です。
②Webサービス（API）による連携
APIを介してデータや機能をやり取りする方式です。プラットフォームを問わず柔軟に連携でき、将来的な拡張性も高いのが特徴です。
③ファイル連携
CSVやExcelなどのファイルを出力・取り込みする方式です。リアルタイム性は低いものの、レガシーシステムやAPIに対応していないツールとも比較的容易に連携できます。
④クラウドストレージ連携
Google DriveやDropboxなどのストレージを介してファイルを共有する方式です。導入負担が小さい反面、同期の遅延やアクセス権限管理には注意が必要です。
どの方式を選ぶかは、自社の業務フローやシステム環境、求めるデータ鮮度によって異なります。ポイントは、既存システムとの連携を前提にすることで、DXの効果を最大限に引き出すことです。会計や修繕など基幹情報を確実に連携させ、現場と経営を1つにつなぐ仕組みを整えましょう。
4.社内体制と業務フローの整備
賃貸管理システムを効果的に運用するためには、システム導入とあわせて社内体制や業務フローを整備することが欠かせません。
部署ごとに異なっていた業務手順を標準化し、情報を一元的に管理できる体制を構築することが大切です。これにより、属人化を防ぎ、誰でも同じレベルでサービスを提供できる環境が整います。
また、システムの利用を全社的に定着させるためには、マニュアルの整備や研修体制の構築も重要です。操作方法や活用事例を共有する仕組みを設ければ、担当者の習熟度を高められ、導入効果を最大限に引き出すことができます。
5.サービスの運用・定着を図る
システムを導入しただけでは、賃貸管理DXの効果は限定的です。導入したサービスを日常業務にしっかりと組み込み、定着させることが不可欠です。
たとえば、点検・修繕の進捗をリアルタイムで共有すれば、部署間での齟齬を防げます。会計ソフトと連携して仕訳を自動化すれば、入力工数の大幅削減にもつながります。
また、利用状況を定期的に確認し、「どの機能が使われていないか」「入力や承認に遅れが出ていないか」をチェックしましょう。必要に応じてフローを見直し、改善を重ねて最適化することで現場に根付きやすくなります。
さらに、現場担当者への研修やマニュアル整備、定着度の可視化も重要です。小さな改善を積み重ねながら成功体験を共有し、現場のモチベーションを高めることで、属人化の解消やオーナー対応の品質向上へとつながります。
6.トラブル発生時はサービスベンダーに相談する
運用中に不具合や操作上の不明点が発生した場合は、速やかにサービス提供会社のサポート窓口へ相談しましょう。
クラウド型サービスは、サポートやアップデートを提供会社に任せられる点が大きな強みです。一方で、オンプレミス型でも保守契約を結んでいればサポートを受けられますが、更新や運用の一部は自社で担う必要があります。
『いい生活の不動産SaaS』は、不動産業務に特化したクラウド型システムです。物件情報や契約、入出金、顧客データを共通データベースで一元管理でき、賃貸管理・PM・AMなど幅広い業務を横断的に連携できます。サポート面では、高いスキルと豊富な不動産業界経験を有した『いい生活の不動産SaaS』の専任スタッフが導入から運用までを幅広く支援します。
外部サポートを活用すれば、突発的なシステムトラブルがあっても入居者対応やオーナー報告を滞らせることなく、現場の負担を増やさずに業務を継続することが可能です。
賃貸管理DXを進めてPM業務の効率化と可視化を進める
賃貸管理DXは、アナログ管理に依存していた業務を軽減し、賃貸管理・PM・AMの垣根を超えて工数削減と連携強化を実現する取り組みです。PM業務においても効率化や人的ミス防止、顧客満足度や資産価値の向上が期待できます。
システムの導入に際しては、まず業務課題を整理し優先順位を定めることが重要です。業務間の分断を防ぐには共通データベースでの一元管理が欠かせません。クラウド型システムを使えば情報を集約し、常に最新データを共有できます。選定時はベンダーに課題を相談し、複数提案を比較して最適な仕組みを見極めましょう。
その一例が、不動産管理に特化したクラウドサービス『いい生活の不動産SaaS』です。データの一元管理はもちろんのこと、会計ソフトと連携して仕訳を自動化できるため、入力工数や人的ミスの防止にも効果的です。
こうした一連の取り組みを積み重ねることで、PM業務は日常の煩雑な作業から解放され、数値に基づく判断やオーナー・入居者との信頼関係構築に注力できるようになります。効率化による余力と、可視化による裏付けがそろうことで、戦略的な経営判断を支える体制が確立されるはずです。
