
「不動産管理ソフトを導入したいが、何を基準に選べばよいかわからない」そんな企業担当者さまに向けて、課題整理から比較の視点、タイプ別の選び方までをわかりやすく解説します。多様な選択肢の中から、自社の業務に最適なソリューションを見つけるためのポイントをお伝えしていきます。
不動産会社が抱える課題

契約や入金の煩雑さ、情報の属人化、災害時の対応リスクなど、不動産管理の現場では多くの課題が複雑に絡み合い、業務の効率化が求められています。
とはいえ、システム導入は企業にとって大きな投資判断であり、日々の業務に追われる中でなかなか検討に着手できないという企業も少なくありません。効果的なシステム導入を実現するために、まずは自社の課題を整理してみましょう。
契約や入金管理の煩雑さ
契約手続きや家賃の入出金管理は、物件数が増えるほど煩雑になりやすく、確認漏れや記入ミスなどのヒューマンエラーも発生しがちです。督促や更新対応などもあり、担当者の業務負担が大きくなっています。
特に繁忙期には、契約書類の作成、入居者への説明、家賃設定の確認など、多数の業務が同時進行することになります。手作業での管理では、見落としや入力ミスが発生しやすく、トラブルの原因となることも少なくありません。また、入金確認や督促業務においても、個別対応が必要となるケースが多く、効率的な管理体制の構築が課題となっています。
情報の属人化・データ分散による管理の非効率
点検報告や空室情報などの業務データが担当者や拠点ごとに管理されていると、情報共有が不十分になりやすく、引き継ぎや全体把握にも支障が出ます。属人化が進むと、ミスや対応遅れにつながるリスクも高まります。
例えば、物件情報や入居者対応の履歴が特定の担当者の記憶や私的メモに依存しているケースです。異動や退職時に重要な情報が引き継がれず、業務に支障をきたすおそれがあります。また、複数の拠点で異なる管理方法を採用している場合、全社的な状況把握や統一的な対応方針の策定が困難になります。
BCP未対応による業務リスク
BCPとは「Business Continuity Plan」の頭文字をとったもので、「事業継続計画」と訳されます。災害や感染症などの非常時でも重要な業務を中断させない、または短期間で復旧させるためのものです。
出社を前提とした業務体制では、非常時の対応に遅れをとる可能性があります。契約書や台帳を紙で管理している場合、出社しないと必要な情報にアクセスできないからです。不動産管理業務は現地確認や書面対応が多く、デジタル化が遅れがちな分野です。非常時でも場所を問わず対応できる体制づくりが急務となっています。
不動産管理ソフト導入によるメリット

不動産管理ソフトには、煩雑な業務を効率化し、情報共有やリスク対策を支援する多様な機能が備わっています。ここでは、導入によって得られる具体的なメリットについて見ていきます。
物件・契約・入出金の一元管理
不動産管理ソフトの導入により、物件情報や契約内容、入出金データなどを一元管理できます。これにより、業務の煩雑さを大幅に軽減でき、入力ミスや漏れを防ぐことが可能です。情報が整理されるため、スタッフ間の共有もスムーズになり、契約更新や家賃の回収状況などの把握もしやすくなります。
不動産管理ソフト上では、物件ごとの詳細情報、入居者の契約条件、入金履歴などが統合的に管理されます。そのため、必要な情報へのスムーズなアクセスが可能です。これにより、入居者からの問い合わせに対する迅速な対応を実現し、顧客満足度の向上にもつながります。
アラート通知・写真報告などの業務支援
点検や契約更新のアラート通知機能により、対応漏れの防止が可能です。契約更新時期の接近、家賃滞納の発生などを事前に通知し、重要な業務の見落としを防ぎます。アラートは担当者ごとに設定でき、優先度や期限を明確化することで、より確度を高めることが可能です。
また、現場で撮影した画像やコメントなどはその場で保存・共有できるため、現場とオフィス間の連携がスムーズになります。さらに、記録が特定の担当者の記憶や手元メモに依存しないため、情報の引き継ぎが容易になり、属人化の解消や対応品質の均一化も期待できます。
クラウド運用による柔軟な働き方とBCP対策
クラウド型の不動産管理ソフトを導入すると、インターネット環境があればどこからでもアクセスすることが可能です。これにより、災害・感染症といった非常時の業務継続(BCP)にも柔軟に対応できます。出社前提の働き方を見直す企業にも適しているといえるでしょう。
クラウド環境では、データのバックアップやセキュリティ対策も自動的に実施されるため、企業が独自にサーバー管理を行う必要がありません。また、システムのアップデートも自動で行われるため、常に最新の機能を利用できます。緊急時の在宅勤務においても、オフィスと同等の執務が可能となり、事業継続性が大幅に向上します。
会計ソフトや電子契約との外部連携で業務効率化
不動産管理ソフトの中には、会計ソフト・電子契約・入居申込管理など、外部システムと連携できるものがあります。情報の再入力やファイル共有の手間を減らし、業務全体の効率化が図れる点が大きなメリットです。部署間や関係会社との連携もスムーズになります。
例えば、家賃収入や経費データを会計ソフトへの自動転送などが挙げられます。これにより、経理部門との連携がスムーズになり、月次決算の早期化や正確性の向上などが期待できます。
不動産管理システムの選び方と比較のポイント

不動産管理ソフトを選ぶ際は、単に価格や知名度で判断せず、自社の課題や運用体制に合ったものを選ぶことが重要です。導入目的を明確にし、さまざまな角度から比較・検討することで、後悔のない選択をしていきましょう。
導入目的と課題整理から始める
まずは、なぜソフトを導入するのか、その目的を明確にしましょう。
契約管理の効率化なのか、情報共有の改善なのか、課題の整理によって導入すべき機能が見えてきます。目的が曖昧なまま導入すると、期待した効果が得られずに形骸化してしまうリスクもあります。
導入目的の明確化では、現在の業務プロセスを詳細に分析することが重要です。どの工程に時間がかかっているか、どこでミスが発生しやすいかなどを把握しましょう。例えば、「月末の家賃管理に3日かかっている」など、具体的な課題を数値化することで、導入効果の測定もしやすくなります。
将来的な事業拡大も視野に入れ、拡張性も考慮した選択を行うことが重要です。
システムの運用環境
不動産管理ソフトには、インターネット経由で利用するクラウド型と、自社内にサーバーを設置して運用するオンプレミス型があります。
クラウド型は場所を選ばずに使え、BCPやテレワークにも有利です。特に昨今の働き方が多様化していることを踏まえると、クラウド型の柔軟性は大きなアドバンテージといえるでしょう。
クラウド型は初期導入コストが比較的安く、システムの運用・保守をベンダーに任せられるメリットがあります。また、自動アップデートにより常に最新機能を利用でき、法改正対応なども迅速に行われます。
一方、オンプレミス型は自社のセキュリティポリシーに完全に適合させることができます。しかし、相応のIT運用リソースが必要となります。社内管理によるセキュリティの安心感がある一方、導入や保守の手間がかかる点に注意が必要です。
多くの企業では、導入・運用の容易さとコストパフォーマンスの観点から、クラウド型を選択する傾向が強まっています。
費用・機能・サポート体制の確認
初期費用や月額料金、搭載されている機能のほか、サポート体制の充実度も比較すべき重要なポイントです。リーズナブルな費用感であっても、サポートが不十分であれば、かえってコストが増えるといったこともあります。実際の運用に即した視点で確認するようにしましょう。
費用面では、初期導入費用、月額利用料、カスタマイズ費用、サポート費用などを総合的に評価する必要があります。
機能面では、現在必要な機能だけでなく、将来的に必要になる機能についても考慮しましょう。これにより、長期的なコストパフォーマンスを向上させることができるはずです。
サポート体制では、業務プロセス改善まで含めた包括的なソリューションに留意しましょう。導入時の現場定着支援や継続的な運用改善提案を受けることで、投資対効果を最大化できるためです。
現場が使いやすいかどうか
高機能なソフトであっても、現場で使いこなせなければ意味がありません。操作性、導入時の研修・マニュアルの有無などを確認し、現場スタッフが無理なく使えるかどうかをチェックすることが大切です。
ユーザビリティの確認では、現場スタッフの意見を確認することが重要です。デモンストレーションやトライアル期間を活用して意見を集約しましょう。特に、ITに苦手意識のあるスタッフでも直感的に操作できるかどうかが大切です。頻繁に使用する機能へのアクセスがスムーズかどうかも確認するようにしましょう。
また、モバイル対応の有無や、外出先での利用しやすさも現場の生産性に大きく影響します。
既存システムとの連携性
現在使用しているポータルサイト、電子契約システム、会計ソフトなどと連携できるかどうかも重要な比較ポイントです。連携によってデータの二重入力や手作業の手間を省くことができるため、連携可能な外部サービスを事前に確認しておきましょう。
既存システムとの連携では、API連携の有無、データフォーマットの互換性などを詳細に確認する必要があります。また、将来的に導入予定のシステムとの連携を考慮しておくことも重要です。拡張性の高いソリューションを選択することで、システム全体の統合性を維持できます。
不動産管理システムのタイプ別比較|大規模資産管理に強い3タイプの特長と選び方

数ある不動産管理ソフトの中から、大規模な資産管理や業務効率化に適したソリューションを3つのタイプに分類し、それぞれの特長を紹介します。不動産管理ソフトの特性を理解したうえで、自社のニーズに最適なソリューションを見つけましょう。
全業務を一元化できる”総合型クラウドソリューション”
不動産管理の現場では、物件情報の管理から契約、入出金、建物管理まで、業務が多岐にわたるのが一般的です。そうした複雑な業務を、1つのシステムでまとめて管理できるのが「総合型クラウドソリューション」の強みです。
代表的なサービスとして挙げられるのが、『いい生活のクラウドSaaS』。SaaS(クラウド型システム提供)とBPaaS(業務支援サービス)を組み合わせたこのツールは、実際の業務フローに寄り添いながら、現場でのスムーズな運用をサポートしてくれます。
導入企業から特に評価されているのが、「運用のしやすさ」と「経営への応用力」です。中小企業から大手企業まで規模を問わず活用でき、複数拠点の連携や将来的な事業拡大にも柔軟に対応できる仕組みとなっています。
さらに、クラウド型ならではのメリットとして、システムが常に自動でアップデートされる点も見逃せません。法改正や制度変更にもスピーディに追従できるので、手間のかかる更新作業に悩まされることもなくなります。
また、導入時のサポートや操作研修も充実しているため、「IT操作が苦手」という方でも安心して使い始めることが可能です。
資産運用・報告業務に特化した専門型ソリューション
不動産ファンドやPM会社など、資産運用やプロパティマネジメント業務を中心に行う企業には、@プロパティやASAレポーティングプロフェッショナルといった専門特化型のソリューションが適しています。
例えば、@プロパティはAM(アセットマネジメント)やPM(プロパティマネジメント)業務に特化した業務システムで、現場の実務を支えるツールとして活用されています。また、ASAレポーティングプロフェッショナルは、PMレポートの作成業務をアウトソースしたいというニーズに対応する支援サービスです。
このような専門型ソリューションの最大の特長は、業界特有の業務にしっかり対応できる点にあります。例えば、投資家向けのレポートを自動で作成できたり、収支の複雑な計算に対応できたりと、資産運用に必要な機能が充実しています。
一方で、こうした特化型システムは、契約管理や会計処理、顧客管理などの周辺業務をカバーしていないケースもあります。そのため、自社の業務全体を俯瞰したうえで、ソリューションがどの範囲を担えるのかを事前に確認しておくことが重要です。
参考:@property
参考:ASAレポーティングプロフェッショナル
基幹システムと統合できる社内運用型ソリューション
社内運用型ソリューションは、ERPや会計システムなどの社内基幹システムとしっかり連携させたい企業に適した構成です。オンプレミスでの運用を前提としており、高度なカスタマイズやセキュリティ対応を重視する企業に選ばれています。
例えば、オービックや東計電算の「J-RENT」といったソリューションがその代表例です。既存のITインフラとの親和性が高く、セキュリティポリシーや運用ルールにも柔軟に対応できるため、大企業を中心に導入が進んでいます。
また、独自の業務要件にあわせて機能を細かく調整できる点もメリットの1つ。自社仕様にあわせた業務フローの実現が可能で、汎用型のクラウドサービスでは対応しきれないニーズにも応えられます。
ただし、運用にあたってはサーバーやネットワーク機器の管理、システム保守などを担う社内体制が求められます。
参考:オービック
参考:J-RENT
自社に合った不動産管理システムを見極めましょう

多くの不動産管理会社にとって最も導入効果が高いのは、総合型クラウドソリューションです。SaaSとBPaaSを組み合わせた包括的な支援を提供するソリューションは、導入時の現場定着から継続的な業務改善まで総合的にサポートしてくれるため、投資対効果を最大化できます。
一方、特殊な業務要件がある場合は専門型、既存システムとの統合を重視する場合は社内運用型の検討も必要となるでしょう。
これら自社の課題や選定基準を整理しながら、現場で本当に活用できるソフトを選ぶことが重要です。そのうえでデモンストレーションやトライアルを通じて操作性や機能を確認し、最適なサービスの導入につなげましょう。