
不動産管理の現場では、契約書や修繕書類など、今でも多くの情報が紙で管理されています。
紙での運用は、保管や押印、回覧といった工程を伴うため、確認や転記に手間がかかりがちです。さらに、部署ごとに管理方法が異なるといった理由で情報が分断されやすくもなります。こうした積み重ねが業務全体の流れを乱し、対応スピードや品質にも影響を及ぼします。
ペーパーレス化は、分断された情報をつなぎ直し、業務全体を一つの流れとして扱えるように再設計する取り組みです。紙の使用量削減だけを目的とした取り組みではありません。
この記事では、紙中心の業務運用が抱える課題を整理し、PM(プロパティマネジメント)業務を効率化するためのデジタル施策について解説します。
紙中心の運用が残る不動産管理業務の課題

紙やExcelに依存した運用が残る業務体制では、情報が担当部署ごとに分断されやすくなります。そのため、情報の確認に手間がかかり、内容の整合を取るだけでも時間がかかってしまいます。
こうした遅れが積み重なると、修繕や請求、オーナー報告といった一連の業務が次々と後ろ倒しになり、全体の進行にゆがみが生じます。結果として、顧客対応のスピードや品質にも影響が出ます。
ここでは、紙中心の業務運用が不動産管理にどのような影響を与えるのかについて具体的に解説します。
属人化を生む紙とExcelの運用
紙とExcelでの管理は形式の統一が難しく、台帳や様式が担当部署や担当者ごとにばらつきます。このばらつきが属人化を招き、情報が個人のファイルや判断に依存する状態を生みます。
業務の属人化が進めば進むほど、確認のたびに担当者を介する必要が生じ、対応スピードに差が出やすくなります。担当者が忙しい時期や不在の場面では代替が効かず、業務が滞るといったことにもなりかねません。
情報の分断が意思決定を妨げる
部署や担当者ごとに管理方法が異なる状態では、内容の整合を取るための確認が欠かせません。同じ物件であっても、参照する書類や台帳が異なれば、判断の基準や根拠がそろいにくくなります。
このズレがあると、修繕の要否や費用負担を整理する際に、判断材料を突き合わせる手間が増えます。判断が滞れば、対応方針の決定も後手にまわり、日々の業務にも影響がおよびます。
遅れが続けば、情報が部門ごとに別々のタイミングで更新され、前提そのものがそろわなくなるおそれがあります。前提がずれれば、同じ内容を扱っていても最終判断に食い違いが生まれかねません。
ペーパーレス化の目的は「書類削減」ではなく「業務再設計」

契約・修繕・請求といったPM業務は、本来一連の流れで動くものです。しかし、紙やExcelで個別に管理していると、情報が分かれ、前後のつながりを追いにくくなります。そのたびに資料を探したり照合したりする必要が生じ、業務全体の進みも鈍くなります。
そこで重要になるのが、契約・修繕・請求情報をひとつの基盤で扱う仕組みづくりです。ペーパーレス化は、書類を減らすための施策ではなく、業務を再設計するための入口と位置づける必要があります。
ここでは、その第一歩となる「情報の一元管理」について解説します。
契約・修繕・請求情報を一元管理する
契約や修繕、請求に関する情報が紙の書類やExcelの台帳に分かれて管理されていると、項目や書式がバラバラになりがちです。結果として、更新や確認のたびに転記や照合作業の必要が生じます。
しかし、情報を一元管理すれば、契約・修繕・請求の情報を共通のデータとして扱えるようになり、手作業の負担が軽減されます。担当者が変わっても同じ画面・同じ項目で情報を確認できるようになるため、引き継ぎやオーナー報告の流れも円滑化するでしょう。
こうした情報の持ち方そのものを組み替えることが、ペーパーレス化を「書類削減」ではなく、「業務再設計」につなげるための第一歩になります。
リアルタイムの情報共有で意思決定を加速させる
紙やExcelを前提にした運用では、承認や確認が担当者の手元で止まりやすくなります。判断に必要な情報がそろわず、方針の決定が遅れるといったことになりがちです。こうした事態を防ぐためには、情報をリアルタイムで共有できる環境を整えることが重要です。
情報をシステム管理すると、処理状況や未承認の案件を一覧で確認できます。期限が迫るタスクも自動で通知され、関係者がそれぞれの端末から状況を把握することも可能です。結果として、判断に必要な前提がそろいやすくなり、対応の滞りを防ぐことにつながります。
PM(プロパティマネジメント)業務の流れを変えるデジタル施策

PM業務全体の流れを再設計するには、手作業が集中しやすい工程をデジタル化することが欠かせません。中でも特に時間を取られやすい契約まわり、日常の報告作業、会計処理は効果が表れやすいです。
ここでは、デジタル化がどのように業務負担を減らし、流れを整えるのかについて解説します。
契約や稟議を電子化し、承認スピードを速める
契約関連の手続きは、今も原本と押印を前提に進む場面が多く残っています。電子化を進めることで、契約締結や社内稟議をオンラインで行えるようになり、原本の回覧や郵送にかかる時間を減らせます。外出先から内容を確認し、そのまま承認や締結まで進められる点もメリットです。
さらに、承認に必要な手続きを同じプラットフォームで扱えるようになると、進行状況を一目で把握できるようになります。どの工程で止まっているのかを確認できるため、遅れを早い段階で察知しやすくなります。担当者同士の認識合わせにも役立ち、判断に必要な前提がそろいやすくなる点もポイントです。
報告・議事録のフォーム入力化
設備の点検結果や修繕報告などは、担当者によって書式や記載内容がばらつきやすいです。そのため、これらをフォーム入力に統一すれば、必要項目・写真添付・発生日時などが自動的にそろいます。内容確認にかかる手間を削減することが可能です。
フォーム化によって情報が整理されれば、過去の報告書を探し回る必要もありません。いつ・どこで・何が起きたのかを即座に確認できるため、再発箇所の特定や対応状況の把握も容易になります。
電子帳票・電子請求で会計を自動化
PM業務の会計処理では、入出金や立替精算ごとに複数のシステムや紙資料を照合する必要があります。情報がばらばらに管理されていると、確認や入力のたびに手作業が発生し、ミスや遅れにつながりやすくなります。
これらの業務を電子化すると、入出金・請求・精算の情報を一つのプラットフォームに統合することが可能です。入金や送金が発生した時点で仕訳が自動生成されるため、会計ソフトへの打ち直しが不要になります。
また、勘定科目・補助科目・摘要・部門コードなども自動で付与されるため、担当者による入力のばらつきや記載漏れも防げます。請求書や領収書を会計ソフトへそのまま連携できるため、月次処理のスピードと精度が安定し、会計業務全体の負荷軽減にもつながります。
データを資産に変える:集計自動化と可視化

日々の入力や処理で発生するデータを自動で集計できるようになると、数値が同じ形式でそろうようになります。形式が統一されれば、必要な切り口での可視化もしやすくなるでしょう。
さらに、データが一か所に集約されることで、時系列の変化も追いやすくなります。物件ごとの違いも見えやすくなり、傾向の整理にも役立つはずです。
こうしたデータ基盤が整うことで、現場で入力した情報をそのまま判断に生かせる状態が生まれます。物件の状態把握や月次の取りまとめの効率化や精度向上にも自ずとつながるでしょう。
ここでは、データ基盤を整備することで生まれるメリットを解説します。
データを活用し、経営判断の精度を高める
デジタル化によってデータが同じ基準で蓄積されるようになると、時系列の変化や物件ごとの傾向を正確に比較しやすくなります。
ばらつきのないデータがそろうことで、稼働率の下振れや修繕費の増減といった変化を掴みやすくなります。これにより、判断の根拠も明確になり、断片的だった情報が一本の流れとして見えるようになるはずです。結果として、対策の検討から実行までの精度が安定します。
レポート自動化で月次報告を省力化
データが自動で集計されれば、月次レポートに必要な数値があらかじめそろった状態になります。担当者が別々のファイルからデータを集め直す必要がなく、そのままレポート生成に進めることが可能です。
オーナーへの報告書や収支レポートをテンプレート化しておけば、集計済みのデータが自動で反映されます。手作業での編集や加工が不要なため、レポート作成にかかる時間を大幅に削減できます。
不動産SaaSの活用でペーパーレスを推進する

PM業務では、契約・修繕・請求などの情報を複数の担当者・部署が扱います。そのため、紙や個別管理のままでは情報が分断されやすく、確認に手間がかかりがちです。
こうした業務特性を踏まえると、データを同じ基盤で整理できる不動産SaaSは、ペーパーレス化との相性が良い仕組みといえるでしょう。契約や修繕の履歴、請求や入金の情報を一括管理でき、紙中心の運用から段階的に移行できます。
ここでは、不動産SaaSを活用してペーパーレス化を進める具体的な方法とポイントを解説します。
不動産特化の統合DBで情報を一元管理
ペーパーレス化を実務レベルで進めるには、契約・修繕・請求といった情報を同じ基盤で扱える環境が欠かせません。そこで有効なのが、業務データをまとめて管理できる不動産特化型SaaSです
不動産管理業務に特化した『いい生活の不動産SaaS』は、契約・収支・修繕・点検などのデータの一元管理が可能です。リアルタイムで情報共有できるため、担当者間の齟齬や情報の取りこぼしの防止につながります。
さらに、複数拠点・複数法人での運用にも対応しており、データの重複登録や転記ミスが起きにくいことも特長の一つです。煩雑だった引き継ぎや報告が簡潔化され、業務標準化と情報活用を同時に実現できます。
電子契約・電子稟議・電子帳票で紙をなくす
『いい生活の不動産SaaS』は、契約締結・稟議・帳票作成といった業務のペーパーレス化が可能です。押印や郵送、FAXといった手作業がなくなり、契約の承認状況や請求処理の進捗をリアルタイムで把握できます。
また、電子化された契約情報や申込データ、入出金、クレーム、修繕対応といった業務の流れはすべてシームレスに連携されます。空室募集から申込・契約、入金確認、修繕対応まで、一連の進行状況をタイムラグなく共有できるため、「今どこにボトルネックがあるのか」をすぐに確認できます。
紙管理では見えづらかった進捗が可視化され、判断のスピードと確実性が高まり、PM業務全体の運用が安定します。
会計システムとの連携で経理業務を効率化
『いい生活の不動産SaaS』は、不動産管理特有の会計処理にも対応しています。
入金・立替・オーナー送金といった各処理に応じて、会計システムにそのまま取り込める仕訳データを自動で作成できます。管理形態ごとの仕訳ルールなどを事前に設定しておけば、手入力や照合作業にかけていた時間を大幅に削減することが可能です。
また、発生主義・現金主義の選択や、仮勘定を利用した複合仕訳、仕訳チェックリストの出力などにも対応しています。そのため、煩雑になりやすい不動産管理の会計処理にも柔軟に対応でき、経理業務の再現性と安定性が高まります。
分析・可視化でデータを意思決定に活かす
『いい生活の不動産SaaS』では、契約・収支・修繕・点検といった管理データが同じプラットフォーム上に蓄積されます。そのため、物件別の収支や賃料、修繕費の推移、滞納状況などを自動的に集計することが可能。手作業でデータを集め直す手間を省くことができます。
物件別の収支や賃料、修繕費の推移、滞納状況なども自動で集計でき、手作業でデータを集め直す負担を減らせます。
また、ダッシュボード上では稼働率やKPIを横断的に確認することもできるため、変化点の把握や比較がスムーズです。現場で登録された最新情報がそのまま分析の対象になる点も特徴で、判断に必要な数値をタイムラグなく把握できます。
こうして集計や分析の手間を減らすことで、収益改善の検討といった意思決定をより確かな根拠をもって進めやすくなるでしょう。
紙からデータへ、PM業務を抜本改善

紙中心の業務運用では、情報が分かれて管理されるため、確認や転記の負担が増えてしまいまいがちです。また、担当者ごとの対応に依存しやすい属人化が進むため、PM業務全体のスピードが落ちるといったリスクもあります。
一方、契約・修繕・請求・会計といったデータをシステムで一括管理すると、業務の前後関係が整理されます。判断に必要な情報もそろいやすくなり、処理の流れが乱れにくくなります。
さらに、データが一か所に集まることで数値の変化や物件ごとの状態が把握しやすくなり、運用判断の精度向上も期待できます。
こうした環境を整えるうえで役立つのが『いい生活の不動産SaaS』をはじめとする不動産SaaSです。収支や修繕履歴をリアルタイムで確認でき、月次レポートに必要な数値もそろいやすくなり、担当者がコア業務に集中できる環境が整います。
ペーパーレス化をきっかけに業務をデータで支える体制へ移行することで、PM業務の安定性とスピードが向上します。こうした仕組みづくりが、今後の成長を支える土台となります。